終戦記念日の今日は、全国で慰霊や戦争を振り返るイベントが行われていますね。
我が家でも、子どもたちに『かわいそうなぞう』を読ませたりしました。
国の主催としては、全国戦没者追悼式(首相官邸HP)が開催されました。
この式典で、祭壇の中央に立てられる「全国戦没者之霊」という標柱について書こうと思います。
この標柱をいま書いているのは、大東文化大学名誉教授の新井光風先生です。
過去には、稲垣菘圃(すうほ)先生が、それ以前は、長く金子鴎亭先生が書かれていました。
金子鴎亭先生の書かれた標柱は、私も学生時代に実物を観たことがあり、背面の漢字仮名交じりの書に息を飲んだのを覚えています。
新井光風先生の標柱の楷書は、個性を押し出そうとされていませんが、この上ない厳粛さ、真摯さを感じさせます。
この標柱の揮毫は、書家が担う「国の仕事」のなかでも格別な重みのはずです。
新元号の「令和」を書いた茂住先生も、書く際はたいへんな心境だったと思いますが、かの戦争の死者を慰霊する国家行事に係ること、尋常なものではありません。
言葉には、やはりその意味に相応しい書き方があります。
「全国戦没者之霊」は、およそこの世に存在する日本語のうち、特別な緊張感を強いるものでしょう。
新井先生は戦争中のお生まれですので、この言葉の重みを引き受けなければという思いは深甚だろうと推察します。
展覧会で観る新井先生の作品とは、別の地平にある作品と言えます。
この標柱の次の揮毫者は、おそらく戦後生まれになるでしょう。
その人は、「戦争を知らない世代がいかにその記憶を語り継ぐか」という問題に、書道的に向き合うことになると思います。