小説を読む時間をつくれませんが、芥川と直木賞はフォローしようと頑張っています。
馳星周さんの『少年と犬』を読みました。
映画化もされた『不夜城』で華々しくデビューした作家です。
欲望や暴力など、人の暗い部分を描くのが元々の専門と思いますが、『少年と犬』は、その対極にあるかのような作品です。
優しさ、気高さというものを、逆説的にではなく、直球どストレートで描いています。
ただ、優しくて気高いのは、あくまで犬。
人間は助けられ、励まされる側です。
この物語の中心にいる犬は、幾人かの飼い主の元を渡りながら、5年をかけて日本を縦断します。
飼い主たちは、いずれも愚かしい生き方しかできない者たち(馳作品の定番のキャラ)で、その多くが、自業自得の破滅や死を迎えます。
犬は、そんな彼ら、彼女らを慰撫します。
暴力を振るい、他者を信じず、思いやりを忘れ、絶望する人に対して、犬は常に寄り添い、ぬくもりで人を包みます。
犬という存在に対する、最大限のトリビュートといえます。
私は「猫派」ですが、犬のなかに、「人もこうあれたら」という思いを見出すのはわかります。
盲導犬やセラピードッグの役割は、人では代替できないのでしょう。
読了したあと、「少年」と「犬」という、ものすごく平易な語が並べられているだけのタイトルに、こんなにも複雑な世界が内包されていたのかと、感じ入ります。
筆をとって「少年と犬」を書いてみました。書体は木訥で力強い隷書がよいように思いました。
実は、学生時代、もう20年近く前、馳先生の講義を大学で受けたことがあります。
当時、馳先生はまだ金髪で、文学遍歴や文学観について語っていました。
授業前は煙草を吸っていて、鐘が鳴ると「仕方ねーな」みたいな感じで話し始めていたのを、懐かしく思い出します。